中小企業向け賃上げ促進税制について
日本経済全体の活性化、労働者の所得向上、そして中小企業における人材確保・定着を促進するために、政府の「成長と分配の好循環」実現のため創設された制度で、近年の改正では、より多くの中小企業が制度を活用しやすいよう要件が緩和されています。
中小企業(個人事業主)が前年度より給与等の支給額を増加させた場合は、その増加額の一部を法人税(所得税)から税額控除できる制度です。(最大45%の税額控除)
また今回の改正により特に重要なものは、賃上げを実施した年度に控除しきれなかった金額の5年間の繰越しが可能となりました。
青色欠損金の繰越控除制度と同様に適用には各事業年度において明細書の添付が必要となり、赤字となる事業年度においても申告の必要があります。なお、青色欠損金は古い事業年度の欠損金から控除されますが、この税額控除は新しい事業年度のものから控除されます。
中小企業向け賃上げ促進税制
対象となる中小企業者等
青色申告書を提出する以下のいずれかに該当する中小企業者等が対象です。
- 中小企業者
・資本金又は出資金の額が1億円以下の法人
・資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人
- 協同組合等(農業協同組合、漁業協同組合など)
- 常時使用する従業員の数が1,000人以下の個人事業主
適用期間
法人 :令和6年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する各事業年度
個人事業主:令和7年分から令和9年分まで
雇用者給与等が増加した場合
〈1.5%以上増加 15%税額控除〉
適用要件 (必須要件)
雇用者給与等支給額が前事業年度と比べて1.5%以上増加
※1 雇用者給与等支給額とは、適用事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入される全ての国内雇用者に対する給与等の支給額をいいます。ただし、「補填額」(その給与等に充てるため他の者から支払いを受ける金額「雇用安定助成金額」及び「役務の提供の対価として支払を受ける金額」を除いた金額をいいます。)がある場合には、給与等の支給額から控除します。
※2 比較雇用者給与等支給額とは、適用事業年度の前事業年度における雇用者給与等支給額をいいます。
税額控除
控除対象雇用者給与等支給増加額の15%を法人税額又は所得税額から控除
税額控除額 ※3 = 控除対象雇用者給与等支給増加額 ※4 × 15%
※3 税額控除額は、法人税額又は所得税額の20%が上限となります。
※4 控除対象雇用者給与等支給増加額は、調整雇用者給与等支給増加額が上限となります。
〈2.5%以上増加 30%税額控除〉
適用要件(必須要件)
雇用者給与等支給額が前事業年度と比べて2.5%以上増加
税額控除
控除対象雇用者給与等支給増加額の30%を法人税額又は所得税額から控除
税額控除額 ※3 = 控除対象雇用者給与等支給増加額 ※4 × 30%
教育訓練費と子育てとの両立・女性活躍支援
上乗せ要件 教育訓練費増加要件
次の2つの要件を満たすこと
(1)教育訓練費の額が前事業年度と比べて5%以上増加していること
(2)教育訓練費の額が適用事業年度の雇用者給与等支給額の0.05%以上であること
教育訓練費の額(適用事業年度) ≧ 雇用者給与等支給額(適用事業年度)× 0.05%
税額控除率の上乗せ
税額控除率を10%上乗せ
教育訓練の対象者
法人又は個人の国内雇用者。したがって、以下の者は国内雇用者ではないため対象外となります。
- 当該法人の役員又は個人事業主
- 使用人兼務役員
- 当該法人の役員又は個人事業主の特殊関係者
- 内定者等の入社予定者
対象となる教育訓練費の範囲
(1)法人等が教育訓練等を自ら行う場合の費用(外部講師謝金等、外部施設使用料等)
①法人等がその国内雇用者に対して、外部から講師又は指導員(以下「外部講師等」)を招聘し、講義・指導等の教育訓練等を自ら行う費用であること。
講義・指導の内容は、大学教授等の座学研修等のほか、技術指導員等による技術・技能の現場指導なども対象となります。なお、招聘する外部講師等は、当該法人の役員又は使用人以外の者であること。
②外部講師等に対して支払う報酬、料金、謝金その他これらに類する費用であること。
法人から講師等の派遣を受けてその対価をその法人に支払った場合の費用も含むものとし、講義等の対価として支払う報酬等に限らず、招聘に要する費用(交通費・宿泊費等を含む)も対象となります。
③法人等がその国内雇用者に対して、施設、設備その他資産を賃借又は使用して教育訓練等を自ら行う費用であること。
④施設・備品・コンテンツ等の賃借又は使用に要する費用であること。
施設・備品・コンテンツ等の主な例示
◇施設・・・研修施設、会議室、実習室
◇器具備品・・・ホワイトボード、プロジェクター、パソコン
◇コンテンツ・・・e-ラーニング
⑤教育訓練等に関する計画又は内容の作成について、外部の専門知識を有する者に委託する費用であること。
(2)他の者に委託して当該国内雇用者に対して教育訓練費等を行わせる場合の費用(研修委託費)
①法人等がその国内雇用者の職務に必要な技術・知識の習得又は向上のため。他の者に委託して教育訓練等を行わせる費用であること。
②教育訓練等のために他の者に対して支払う費用(講師の人件費、施設使用料等の委託費用)であること。
(3)他の者が行う教育訓練等に参加させる場合の費用(外部研修参加費)
①法人等がその国内雇用者の職務に必要な技術・知識の習得又は向上のため、他の者が行う教育訓練等に当該国内雇用者を参加させる費用であること。
②他の者が行う教育訓練等に対する対価として当該他の者に支払う授業料、受講料、受験手数料その他の費用であること。
対象とならない費用
- 法人等がその使用人又は役員に支払う教育訓練中の人件費、報奨金等
- 教育訓練等に関連する旅費、交通費、食費、宿泊費、居住費(研修の参加に必要な交通費やホテル代、海外留学時の居住費等)
- 福利厚生目的など教育訓練以外を目的として実施する場合の費用
- 法人等が所有する施設等の使用に要する費用(光熱費、維持管理費等)
- 法人等の施設等の取得等に要する費用(当該施設等の減価償却費も対象となりません。)
- 教材等の購入・制作に要する費用(教材となるソフトウエアやコンテンツの開発費を含みます。)
- 教育訓練の直接費用でない大学等への寄附金、保険料等
教育訓練費の明細書の記載事項
- 上乗せ要件の適用にあたっては、前事業年度及び適用事業年度における教育訓練費の額に係る明細書を作成のうえ、保存する必要があります。(提出不要)
- 明細書には次の①~④の事項が全て記載されている必要があります。
- 教育訓練等の実施時期・・・年月は必須、日は任意で記載
- 教育訓練等の実施内容・・・教育訓練等のテーマや内容及び実施期間
- 教育訓練等の受講者・・・教育訓練等を受ける予定、又は受けた者の氏名等(個人が特定可能な情報)
- 教育訓練費の額の支払証明・・・費用を支払った年月日、内容及び金額並びに相手先の氏名又は名称が明記された領収書の写し等(インターネットで振込等を行った場合は振込証明書等)
中小企業庁HPより
上乗せ要件 子育てとの両立支援・女性活躍支援要件
適用事業年度中に「くるみん認定」、「くるみんプラス認定」もしくは「えるぼし認定(2段階目以上)」を取得したこと又は適用事業年度終了の時において、「プラチナくるみん認定」、「プラチナくるみんプラス認定」もしくは「プラチナえるぼし認定」を取得していること
※ただし適用事業年度終了の時までに当該認定が取り消された場合は除きます。
税額控除率の上乗せ
税額控除率を5%上乗せ
繰越控除措置
要件を満たす賃上げを実施した年度に控除しきれなかった金額は翌年度以降に5年間繰り越しが可能(新設)
繰越控除措置を適用する場合は、
①未控除額が発生した事業年度以後の各事業年度の確定申告書に繰越税額控除限度額の明細書
及び
②繰越税額控除措置の適用を受けようとする事業年度の確定申告書等に繰越控除を受ける金額を記載するとともに、その金額の計算に関する明細書を添付して、提出する必要があります。法人の場合、繰越税額控除限度超過額の明細書と繰越控除を受ける金額の計算に関する明細書の書類が異なります。
①の明細書が提出されていない場合、未控除額は繰り越されず、繰越税額控除を適用できません。
(注1) 未控除額を翌年度以降に繰り越す場合には、未控除が発生した事業年度以後の各事業年度の確定申告書に繰越税額控除限度額の明細書の添付が必要です。
(注2) 繰越税額控除を受けようとする事業年度において、雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額より増加している場合に限り、適用可能。
中小企業庁HPより