令和8年度(2026年度)税制改正:中小企業向け「賃上げ促進税制」はどう変わる?
2026年(令和8年)3月、所得税法等の一部を改正する法律案が成立し、「賃上げ促進税制」が大きく見直されました。大企業向けの制度が廃止され、中堅企業向けも要件が厳格化された上で段階的に廃止される方向ですが、中小企業向けの制度は継続して活用可能です。人手不足の中で賃上げに取り組む中小企業を応援するための強力な制度ですが、今回の一部ルール変更により、事前の対策がより重要になっています。改正のポイントをわかりやすくまとめました。

改正の大きな変更点
今回の令和8年度改正において、中小企業が最も注意すべき変更点は以下の2つです。
- 「教育訓練費の上乗せ(+10%)」が廃止
これまで、教育訓練費を一定以上増やすことで受けられた「10%の税額控除の上乗せ」措置が廃止されます。
- 最大控除率が「45%」から「35%」へ引き下げ
教育訓練費の上乗せが廃止されたことに伴い、適用できる最大の控除率がこれまでの45%から35%へと引き下げられます。

これまで通り維持される制度
教育訓練費の上乗せはなくなりましたが、中小企業にとって使い勝手の良い基本的な優遇措置は、改正後も変更なく継続されます。
- 基本の税額控除(最大30%)
全従業員の給与総額を前年度より1.5%以上増加させると15%、2.5%以上増加させると30%の税額控除が受けられます。
- 子育て・女性活躍の上乗せ(+5%)
「くるみん」や「えるぼし(2段階目以上)」などの認定を取得している場合、控除率が5%上乗せされます。
- 赤字でも「5年間の繰越控除」
賃上げを実施した年度に赤字や法人税額が少ない等の理由で税額控除を使い切れなかった場合、その控除枠を最大5年間繰り越すことができる特例も維持されています。

改正前後の比較表
| 項目 | 令和7年度まで(改正前) | 令和8年度から(改正後) |
| 基本控除(1.5%増) | 15% | 15%(変更なし) |
| 基本控除(2.5%増) | 30% | 30%(変更なし) |
| 教育訓練費の上乗せ | 10% | 廃止 |
| 子育て・女性活躍の上乗せ | 5% | 5%(変更なし) |
| 最大税額控除率 | 45% | 35% |
| 未控除額の繰越 | 最長5年 | 最長5年(変更なし) |
適用時期に関する注意点
改正後の制度は、法人の場合2026年(令和8年)4月1日から2027年(令和9年)3月31日までの間に開始する各事業年度について適用されます。所得税(個人事業主向け)についても同様の改正が反映されます。
賃上げ税制の活用は「事前のシミュレーション」が鍵です!
賃上げ促進税制を活用すれば、賃上げによる負担の大部分を税額控除という形でカバーすることが可能です。しかし、「いくら賃上げをすれば、どれだけ税金が安くなるのか」を把握せずに見切り発車してしまうと、要件を満たせず税制優遇を受けられないリスクがあります。
また、給与を上げれば社会保険料の会社負担分も増加するため、一度上げた賃金は下げにくいという点を踏まえ、持続可能な賃金水準で計画を立てることが何よりも大切です

間違いやすい点や注意点
賃上げ促進税制は、要件や計算方法が少し複雑なため、実務上「思わぬ落とし穴」にはまってしまうケースが多々あります。適用に向けて特に間違いやすい点や注意すべきポイントを5つにまとめました。
- 役員やその親族の給与を含めて計算してしまう
賃上げ税制のベースとなる「国内雇用者給与等支給額」には、役員、役員の配偶者、および役員の親族(特殊関係者)に支払った給与は含めることができません。同族会社などでは、親族を従業員として雇用しているケースも多いですが、彼らへの給与や賞与を誤って計算に含めてしまうと、税務調査で否認される原因となります。
- 退職者の影響で「給与総額」が減少し、要件を満たせない
この制度の「1.5%以上(または2.5%以上)の増加」という要件は、個別の従業員の基本給ではなく、「会社全体の給与支給総額」で判定されます。そのため、「従業員全員の基本給を一律で引き上げた」としても、以下のようなケースでは給与総額が前年度を下回り、適用を受けられないリスクがあります。
- 給与水準の高かったベテラン社員が退職した
- 退職者の穴埋め(新規採用)が期中に間に合わなかった
- 業績連動の賞与(ボーナス)を前年より減らした
- 税額控除には「法人税額の20%」という上限がある
計算上、多額の税額控除額が算出されたとしても、その年に差し引ける金額は「その年の法人税額(個人事業主の場合は所得税額)の20%まで」という強力な上限(キャップ)が設けられています。
「賃上げした分だけ、まるまる税金が安くなる(税金がゼロになる)」と勘違いして資金繰り計画を立ててしまうと、想定外の納税が発生するため注意が必要です。
- 雇用関連の「助成金」などを差し引かずに計算してしまう
国や自治体から「雇用調整助成金」や「人材確保等支援助成金」など、従業員の給与に関連する助成金・補助金を受け取っている場合、その金額を給与総額から差し引いて計算しなければなりません。
これを差し引かずに「給与が増加した」と計算してしまうのは、非常によくある計算ミスの一つです。
- 「繰越控除」を受けるための申告手続きを忘れる
令和8年度改正後も維持されている「5年間の繰越控除」は、赤字企業にとって非常にありがたい制度ですが、自動的に適用されるわけではありません。
繰越控除を有効にしておくためには、赤字であっても、賃上げを実施した年度から毎期連続して「明細書(別表)」を確定申告書に添付して提出する必要があります。申告漏れが1年でも発生すると、その時点で繰越の権利を失ってしまいます。
失敗を防ぐためのポイント
賃上げ促進税制は「決算期末になってから慌てて計算する」のではなく、「期首から期中の段階で、退職者の見込みや賞与の支給額を含めた着地予測(シミュレーション)を立てること」が最大の防衛策です。少しでも不安な点がある場合は、賃上げを実施する前に、顧問税理士などの専門家へ早めに相談することをおすすめします。
